弱り目に祟り目だった習近平の訪米

最大の売りであった経済が落ち目になると、こうも扱いが変わるものかと痛感させられたのが、今回の訪米であった。

軍事パレードで力を見せつけ、シアトルではボーイング社の旅客機を300機も爆買いし、意気揚々とワシントンに乗り込んだが、そこには、とんでもない伏兵が潜んでいた。

ローマ法王フランシスコである、オバマ大統領だけでなくバイデン副大統領までもが夫婦そろって出迎え、テレビは連日一挙手一投足を生中継で伝え、各地でパレードを行い群衆は熱狂的に歓迎した。

全米が法王フィーバーに沸く中、習近平の訪米に対するマスコミや国民の関心は薄く、すっかり存在感がかすんでしまった。その余りのタイミングよさに、キリスト教徒やイスラム教徒に対する弾圧を止めない習近平に対する当てつけではないかと、ついつい勘繰ってしまいたくなる。

しかも、法王や安倍首相のように議会での演説も出来ず、国賓とは名ばかりの格下扱いで、シアトルとは打って変わった、冷たい雰囲気の中で米中首脳会談は行われた。

首脳会談で合意した内容は、共同記者会見における習近平の表情を見ればわかるように、中国にとっては芳しいものではなかった。

■中国が目指す新しい大国関係への言及が全くなかった。
米国は、法を無視し軍事力を背景とした海洋進出には反対する。したがって、新しい大国関係などは認めない。

サイバー攻撃はしないことで合意した。
もし、中国がこれを順守しない場合は、米国は経済制裁(まずは、利上げ)も辞さない。

南シナ海は、古代から中国の領土だった。
米国は、歴史的、法的根拠のない手前勝手な屁理屈は認めない。これに対抗する手段(ベトナムやフィリピンに米軍駐留、南沙諸島の封じ込め)をとる用意がある。

■軍用機の衝突を避ける行動規則に合意した。
東シナ海南シナ海での中国軍機の示威行動が制約された。

■中国は、7%の経済成長達成は可能と明言した。
中国経済の減速に対する不安を払拭するために、約束せざるを得なかった。しかし、実現は困難で、信用低下に拍車をかけるだけ。

温室効果ガスの排出量取引導入を約束した。
石炭中心から電気、LNGへの転換を迫られるが、これは、中国経済に大きな負担を強いるものであり、7%達成の可能性を益々困難にさせる。
また、環境技術に関しては日本の支援が不可欠であるが、尖閣にこだわる限り十分な支援を得られることはないため、空約束に終わる可能性が大きい。

■米国に逃亡中の中国人犯罪者らの送還協力を推進する。
当面の腐敗防止政策を推進するには役立つが、汚職官僚の逃げ場がなくなるため、保身に走る余り行政が停滞し、国家機能がマヒする可能性が有る。また、自分が追われる立場になった時、受け入れてくれる国がなくなる。

4兆5600億円もの買い物をしたにも関わらず、中国が目指した新しい大国関係や、対等な関係を構築することが出来なかったのみならず、いやな課題を押し付けられてしまい、何ら得るものがなかったのが今回の訪米であった。国賓というメンツにこだわったばかりに高い買い物をしたものだ。

また、中国国内にボーイング社と合弁会社を作って旅客機を製造するそうだが、知的財産権の保護や外国企業に対する透明性の高い法整備が行われない限り、その実現性は低いと言わざるを得ないのではないか。

反日デモにおける日系企業に対する襲撃が、米国の企業に対して行われないと言う保証はないし、天津大爆発事件の真相究明をろくに行わず、臭いものに蓋をするようでは、危なくて進出できないからだ。

それにしても衝撃的だったのは、国連で習近平が「世界女性サミットを主催する」と表明したのに対し、民主党大統領候補のヒラリー・クリントンは、「女性の権利を訴える人々を迫害しながら、国連で女性の権利に関する会議を主催するとは、恥知らずだ」とこき下ろしたことである。

「言っていることと、実際にやっていることは全く違うではないか」というのが、米国の、いや世界の中国に対する共通認識なのだ。だから何を言っても、その真意を疑われ、信用されないのが、習近平が率いる中国の現状なのだ。