オズボーン財務相は第2のチェンバレンか?それとも

英外相チェンバレンの対独宥和政策は、ヒトラーを益々増長させ、結果的に第2次世界大戦の引き金を引いてしまった。

 

力を背景として、既存の国際秩序を再構築しょうと目論む独裁者に対する宥和政策は、危機を増幅させ、ロクな結果にならないことは歴史が証明するとおりである。

 

その教訓を英国はしっかりと学んだはずなのに、同じ過ちを犯そうとしているのであろうか?そう、オズボーン英財務相の異常なまでの対中宥和政策である。

 

AIIBには西欧諸国では真っ先に参加を表明して、南シナ海岩礁埋め立てで孤立しつつあった中国を救い、今度は、訪米では、旅客機を300機も爆買いしたにも関わらず、ワシントンでは冷たくあしらわれた習近平を、国賓として厚遇して蜜月関係を演出し、権威を高める手助けをした。

 

こうした中国重視政策を「オズボーン主義」と称するのだそうだが、人権問題や強引な海洋進出は棚上げにして、経済的利益のみを追求する姿勢は、大英帝国の威信を自ら毀損させるのみならず、中国に英国組みやすしと足元をみられ、いいように利用されかねない危険性をはらんでいるのだ。そう、かって、ヒトラーチェンバレンを手玉に取って利用したように。

 

さすがに、英国内では、「キャメロン政権が中国にぬかずいている」との批判が出ているようだが、そう受け取られてもしかたないだろう。

 

10月21日に行われた首脳会議では、8項目の合意がなされたが、その中でも注目されるのは、中国マネーを使って、中国の原子炉技術を導入して原発を建設する、高速鉄道事業を協力して促進する。の2つであろう。

 

中国の企業が原発建設に参加することは、中国に英国の安全保障の一部を委ねることを意味する。

 

また、日本の新幹線の3世代も4世代も前のコピーでしかない中国製の高速電車を導入したとしても、鉄道発祥の地で、目の肥えた英国人を満足させられる質の高い電車を、安全に走らせることができるかは、はなはだ疑問である。

 

このように、「オズボーン主義」は、7.4兆円の大金欲しさに、国の安全保障と国民の安全を売り渡す行為であり、そこまで大英帝国は落ちぶれたか、との感を強くする。

 

しかし、物事には、何でも裏表の2面がある。見逃してはならないのは、習近平が両国関係を「共同体」と称して政治的連帯を求めたのに対し、キャメロンはこれに一切反応することなく、経済問題だけにマトを絞ったことである。

 

英国の歓心を買うため大盤振る舞いした7.4兆円も、経済減速が益々顕著となり、7%の成長なぞは夢のまた夢、6%すら怪しい現状では、これだけの大金を本当に工面できるか、中国が参加する原発建設に英議会や国民が同意するのか、英国の国情や風土に適合した高速鉄道を提供できる技術やノウハウが本当にあるのか等々を考えると、しょせんは、空手形、空約束に終わってしまう可能性が十分ある。

 

そうなると、カネの切れ目は縁の切れ目で、「オズボーン主義」は幻想となり、同時に、中国の国際的信頼性は益々低下し、習近平の権威も大きく失墜するだろう。胴上げして、一斉に手を引っ込める、正に、天国から地獄に真っ逆さまだ。

 

香港では煮え湯を飲まされ、李首相の訪英では、エリザベス女王との面会を強要されるなど、中国に対する屈辱感が鬱積していた中での習近平の訪英は、出来もしない約束を交わすことによって、中国に意趣返しを行うための舞台装置だったのだろうか。

 

それが隠された真の狙いであったのなら、老獪で狡猾な大英帝国の面目躍如といったところで、まさに、「おぬしやるな!!」であろう。