南シナ海でデッドロックに乗り上げた中国

仏の顔も3度(防空識別圏設定、AIIBの設立、岩礁埋め立てと軍事基地化)まで。平和主義者にして対中宥和主義者のオバマも、さすがにガマンの限界に達したのか、それとも、リビア失敗の教訓を学んだのだろうか。

ようやく、南シナ海における中国の露骨な覇権行動に対抗するため、実力行使に転じた。

10月27日、中国が建設した人工島12カイリ内で、イージス艦による巡視活動を開始したことを公表したのだ。

中国が岩礁埋め立てを始めた初期の段階で、口先だけでなく軍事力を使って阻止していれば、ここまで事態は深刻化しなかったかも知れない。

しかし、埋め立てが完了し滑走路まで建設した今となっては、時すでに遅しであり、中国にしても、そう簡単に引き下がることが出来なくなってしまった。

それでも、何もしないよりはましで、少なくとも、アジアへのリバンス政策が空理・空論ではないことを、日本を始め東南アジア諸国に行動で示したことは、米国に対する信頼性の向上には繋がるだろう。

それにしても、生粋の親中派ライス大統領補佐官の言うがままに、習近平を甘やかし続けたツケは余りにも大きい。所詮、話し合いで物事が解決できるような相手ではないのだ。

巡視活動によって、米国が人工島における中国の領有権を明確に否定したことにより、今後、中国は領有を既成事実化するため、防空識別圏の設定、軍事基地化のさらなる推進、人工島への軍隊駐留等々、軍事力を増強して対抗せざるを得なくなった。

しかし、こうした対抗策のエスカレートは、米軍をこの地域に磁石のごとく引き寄せる結果をもたらし、軍事的な緊張を一層増大させるだけである。

こうした米中の軍事的緊張関係は、足並みの乱れが目立つASEAN諸国を結束させ、離中から反中へと向かわせる可能性がある。

その兆候は、すでに出始めている。米海軍と海上自衛隊は、南シナ海で空母レーガンも参加した演習を行い、また、中国寄りと目されているインドネシアはTPP参加を表明し、中立的な立場をとっているタイも参加に興味を示し始めており、中国は東南アジアにおいて、しだいに孤立しつつある。

また、TPPの大筋合意はEUにも影響を及ぼし、これまで停滞していた日欧EPA交渉を加速させるという、副産物を生み出そうとしている。

もしこれが妥結すれば、太平洋と欧州において、中国を排除した経済圏が誕生することになる。

こうした事態は、衰退期に入った中国経済をさらに悪化させるだけでなく、南シナ海への軍事力増強は、さらなる出費を強いることになり、それが、経済をより悪化させ、これが、国内情勢の不安定化へと発展するという負のスパイラルに嵌り込むことになる。

ライスの甘言に乗り、軍事費の大幅削減に乗り出した米国の足元を見て、軽率にも岩礁の埋め立てを行ったことにより、中国は文字通りデッドロックに乗り上げ、にっちもさっちも行かなくなりつつあるのだ。

さらに、29日、ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海における領有権に関する審理開始を決定した。中国の南シナ海に対する一方的な主張と傍若無人の振る舞いは、国際法の観点からも裁かれようとしている。

こうした事態を回避するためには、「中国の夢」などという誇大妄想を周辺国に強要するのは止め、国営企業を民営化するなどの大改革に乗り出すことが必須だが、これは、即、共産党の権力基盤を崩壊せることに直結する以上、どだい無理な話であるから、中国の将来は益々暗くなったと言わざるを得ないのだ。