天狗の鼻をへし折られた!?プーチン大統領

驕れる者久しからず。クリミア半島の併合、ウクライナ東部地域の占領、はては、北方領土占領の正当化等々、やりたい放題、言いたい放題の強面プーチン大統領が、いきなり、背後から強烈なアッパーカットを喰った。

 

そう、11月24日のトルコ軍機によるロシア軍機撃墜だ。しかも、パイロットの救援に向かったヘリが反体制派組織の攻撃によって緊急着陸を余儀なくされ、そのヘリもTOW対戦車ミサイルによって破壊されてしまうと言う、2発も余分なパンチを受けてしまった。

 

トルコのエルドアン大統領にしてみれば、これまでも度々、ロシア軍機が国境を侵犯しており、その都度、止めるよう抗議し、また、トルコ系のトルクメ人居住区を空爆しないよう要求していたにもかかわらず、これを無視してきたことに対し、もう我慢が出来ないと、一発パンチをお見舞いしてやったということだろう。

 

一方、プーチン大統領にとっては、反体制派を攻撃してアサド政権を助けると同時に、難民をトルコに追いやり、あわよくば、シリア北部地域をロシアの支配下に置いて、中東における軍事的拠点とする、一石三鳥の目論見だったが、それが挫折してしまった。

 

トルコの抗議など、口先だけでたいしたことはなく、適当にあしらって既成事実を積み重ねて行けば、ウクライナ東部のように手中に収めることが出来ると踏んでいたのだろうが、いきなり、軍用機を撃墜すると言う予想外の強硬手段に出られて、面食らったというのが正直なところであろう。

 

プーチン大統領が、「重大な結果をもたらす」と言い返すのが精一杯でボーゼンとしている間に、オバマ大統領はいち早く、トルコの主権防衛の権利への支持を表明し、NATOもトルコの行動を支持したことにより、トルコの領空侵犯機に対する撃墜行動が国際社会で認知され、ロシアは政治的にも軍事的にも対抗手段を封じられてしまった。

 

プーチン大統領ができたのは、米露が10月に合意した衝突回避覚書に対する違反だと米国を批判し、シリア北部に対空ミサイルを配備する程度であった。

 

25日、ラブロフ外相が、「トルコと戦争をするつもりはない」と表明したが、もし、戦争になってボスポラス海峡が閉鎖されたら、クリミア艦隊は黒海に封じ込められ、シリアへの補給路を遮断されてしまうだけでなく、NATOをも相手にしなければならないことから、ロシアがトルコに対してとり得る軍事的な対抗手段は殆ど無いというのが実態だ。

 

残る報復手段は経済制裁しかないが、それも、貿易や人的交流を制限する程度のショボイもので、天然ガスのパイプライン建設停止や原発建設支援停止などは、ロシアが受ける打撃の方が大きいことから対象から除外された。

 

欧米諸国から経済制裁を受け、唯一、ドアが開いていたトルコとの経済関係を遮断することは、ロシアにとっては、自らの首を絞めるようなものだ。

 

おまけに、26日、訪ロしたオランド大統領に対しては、アサド政権対応は平行線をたどったものの、反体制派に対する空爆は避けることを約束させられてしまった。

 

シナイ半島でのロシア旅客機爆破の報復として、ISに対する空爆に留めて置けば、EUとの関係修復が期待できたものを、つまらぬ色気を出して、トルコの舎弟であるトルクメ人まで空爆したことにより、トルコの怒りを買い、その結果、プーチン大統領の権威とロシア軍の面目失墜という大きな代償を支払わされてしまったのだ。

 

一方、エルドアン大統領の毅然とした領土保全行動は、世界から一目置かれる存在となり、EUから頼りにされ、難民対策強化という名目で3,900億円もの大金をせしめることが出来ただけでなく、シリア問題で主導権をロシアから奪回したのである。

 

「盛者必衰、驕れる者久しからず」プーチン大統領はこの言葉を良く噛みしめ、身の処し方を節するべきであろう。習近平もまたしかりである。