真綿で首を絞められる中国の人工島

11月4日に開催された拡大ASEAN防相会議においては、米国が主張する「行動の自由」を盛り込んだ共同宣言を出すことなく終わった。

ASEAN10か国の内、米国の主張を支持したのはベトナム、フィリピン、中国の主張に理解を示したのはラオスカンボジア、残りの6か国は後難を避けるためか、態度を明確にしなかった。

しかし、議長国であったマレーシアのヒシャムディン国防相は、カーター国防長官とともに米空母ルーズベルトに同乗することによって、間接的に米国支持を表明した。

いずれにしても、この会議においては、東南アジアにおける中国の影響力の大きさを見せつけられ、米国の威信の低下とオバマのリバランス政策がいかに信用されていないかを如実に示すものとなった。

態度を曖昧にした国々は、米艦艇の巡視活動程度では、米国の本気度がどの程度のものなのかを判断できないため、うかつに、米国の側につくことが出来なかったのだ。

中国にしてみれば、正にしてやったりで、引き続き米国を排除して当事国の2国間だけでこの問題を処理しょうとするだろうが、そう思うようにいかないのが世の常だ。

ベトナム習近平ハノイを訪問した翌日の6日、中谷防衛大臣との間で、カムラン湾の海軍基地に海自の艦艇が寄港することで合意すると共に、防衛協力を拡大する方針を確認したことによって、中国がもくろむ2国間取引戦略は早くも躓いてしまった。

今後、べトナムは、米国やオーストラリア艦艇のカムラン湾寄港を容認するだろう。そして、フィリピンもこれに倣って、スービック湾への寄港容認へと発展することになるだろう。

中国は「行動の自由」の採択を阻止することに成功はしたものの、今後は、南シナ海において、ベトナム、フィリピンだけでなく、日、米、豪の海軍とも対峙することになるのだ。

米国のリバランス政策に中身が伴い、本気であることが分かれば、態度を曖昧にしている国々も、中国と距離を置くようになるだろう。

また、EUも「国際法で解決」を明言し、これは、11月6日、51か国の外相が参加したASEM外相会合において、「力の行使と力による威嚇の抑制」や「国際法による平和的な紛争解決」に加え「一方的行為の自制」を盛り込んだ議長声明採択へと繋がった。

中国は、「南シナ海」という直接の表現を入れることは阻止できたものの、こうした声明が採択されたことは、東南アジアのみならず、世界が中国の一方的な海洋進出に対して反対を表明したものであり、中国の孤立が一層際立ったものとなった。

そして、南シナ海という文言が入らなかったことにより、この声明は東シナ海にも適用されるから、日米調整機関が始動し、グレーゾーン対処の実効性が一段と高まった日本にとっても、大きな成果となった。

習近平は、理解を示してくれるのは、ラオスカンボジアの2か国だけというトホホな状態に追い込まれ、東シナ海においても行動を抑制されることになったのだ。

さらに、7日、殆ど死に体の馬英九と歴史的な首脳会談を行って、「中華民族」と「一つの中国」をアピールしたが、これは、台湾国内において大きな反発を引き起こし、総統選と立法委員選挙における民進党の躍進に手を貸してしまうという、藪蛇になりかねない事態を作り出しただけであった。

中国人よりも台湾人としての自覚が60%を超え、香港における1国2制度の惨状を目の当たりにした台湾の人々にとって、「今更、何を寝ぼけたことを言ってんだ」であろう。

習近平のカネと力を振りかざした強権外交は、しだいに、世界から寄ってたかって、手枷、足枷をはめられつつあるのだ。