空爆だけで「イスラム国」を壊滅できる?

イスタンブールの爆弾テロ、ロシア旅客機の爆破、そして、11月13日のパリ同時テロと、こうも立て続けに大規模テロが頻発すると、小規模な空爆だけでお茶を濁してはおれなくなった。


特に、COP21に備えて警備態勢を強化していたさ中に、たった8名のテロリストによって、129名もの市民を無差別に殺害されたオランド大統領の面目は丸つぶれだ。思わず、フランスは戦争状態にあると叫んだのも無理からぬものがある。


戦争となれば、「殺る」か「殺られるか」の世界だ。こうなれば、個人の自由や意思、人権、人道主義もクソくらえで、フランス、ベルギーではなりふり構わぬ捜索が行われ、テロリストの拘束が行われている。


そのあおりを受けて、欧州においては難民の受け入れ拒否の動きが始まり、米国でも50州の内31州が難民の受け入れ反対を表明した。


そして、シリアを取り巻く国際情勢も大きく変化しょうとしている。プーチン大統領はオランド大統領の協力要請に対し、フランスを「同盟国」と呼んでこれに応え、EUとロシアが対立してきたウクライナ問題はどこかにすっ飛んでしまった。


注目すべきは、17日に行われたプーチン大統領とロハニ大統領の電話会談だ。この会談において、仏・イ両国が軍事情報の提供など、対テロ連携で合意したことだ。


イスラムシーア派大国のイランが、キリスト教国フランスと軍事面で連携することは、キリスト教イスラム教の宗教戦争に持ち込みたい「イスラム国」にとっては、ムハンマドの時代に回帰するという大義名分が、大きく毀損することを意味する。


また、米国とトルコは、シリアとの国境を完全に封鎖することで合意し、これによって、トルコ経由の人・物の補給ルートが遮断されることになる。


このように、「11.13」を契機に、「イスラム国」包囲網が形成されつつあるが、問題は、どうやって壊滅に追い込むかである。


第2次大戦中の、ロンドン、ドレスデン、東京とくれば、歴史に詳しい人であればすぐにピンとくるであろう。そう、これらは大空襲で徹底的に破壊された都市である。


空爆の主目的は、インフラの破壊による国力の低下、軍事施設を破壊して軍事力を低下させることに加え、敵国民の戦意を喪失させることにある。


しかし、空爆によってインフラや軍事施設などモノを破壊することは出来ても、敵国民の戦意を喪失させることは不可能と言わざるを得ない。それは、こられ大都市を破壊しても、逆に、国民の復讐心を煽ってしまい、戦争の継続に正当性を与えたことからも明らかであろう。


ましてや、殉教すれば天国に行けると信じて、自爆をも厭わない相手に対してはなおさらであり、敵愾心を益々あおってテロに走らせるという逆効果になりかねない。


古くはソ連軍によるベルリン占領、新しくは、イラク戦争におけるバグダッド占領と、戦争の決着をつけるのは地上部隊なのである。


オバマ大統領は、「地上部隊の投入は誤りである」と否定的であるが、その考え自体が間違っていると言わざるを得ない。


また、軍事行動の選択肢を自ら狭め、これを公言して手の内を明かす稚拙な行為は、「イスラム国」に足元を見られ、乗ぜられるだけである。


いくら空爆を行おうと、巡行ミサイルを撃ち込もうと、家屋や施設は破壊できても、「イスラム国」兵士の戦意を挫くことはできないし、テロリストを世界中に拡散させるだけである。


湾岸戦争」レベルの大規模な地上部隊を投入して、一挙に包囲殲滅するしか「イスラム国」を壊滅させることは出来ないのだ。


アサド政権を残すか否か、反体制派をどうするかなどなど、些細な問題を巡って、米ロは主導権争いをしているが、そんな悠長なことをやっている暇はない。


世界中にテロが蔓延するのを防ぐためにも、「小異を捨てて大同に就く」決断が、米ロのみならず、関係各国の首脳に求められている。


まず、シリア、イラクの「イスラム国」というガンを切除することが大切なのだ。空爆ではガン細胞を叩くことは出来ても切除することは出来ない。それが出来るのは、地上軍だけなのだ。