南シナ海でデッドロックに乗り上げた中国

仏の顔も3度(防空識別圏設定、AIIBの設立、岩礁埋め立てと軍事基地化)まで。平和主義者にして対中宥和主義者のオバマも、さすがにガマンの限界に達したのか、それとも、リビア失敗の教訓を学んだのだろうか。

ようやく、南シナ海における中国の露骨な覇権行動に対抗するため、実力行使に転じた。

10月27日、中国が建設した人工島12カイリ内で、イージス艦による巡視活動を開始したことを公表したのだ。

中国が岩礁埋め立てを始めた初期の段階で、口先だけでなく軍事力を使って阻止していれば、ここまで事態は深刻化しなかったかも知れない。

しかし、埋め立てが完了し滑走路まで建設した今となっては、時すでに遅しであり、中国にしても、そう簡単に引き下がることが出来なくなってしまった。

それでも、何もしないよりはましで、少なくとも、アジアへのリバンス政策が空理・空論ではないことを、日本を始め東南アジア諸国に行動で示したことは、米国に対する信頼性の向上には繋がるだろう。

それにしても、生粋の親中派ライス大統領補佐官の言うがままに、習近平を甘やかし続けたツケは余りにも大きい。所詮、話し合いで物事が解決できるような相手ではないのだ。

巡視活動によって、米国が人工島における中国の領有権を明確に否定したことにより、今後、中国は領有を既成事実化するため、防空識別圏の設定、軍事基地化のさらなる推進、人工島への軍隊駐留等々、軍事力を増強して対抗せざるを得なくなった。

しかし、こうした対抗策のエスカレートは、米軍をこの地域に磁石のごとく引き寄せる結果をもたらし、軍事的な緊張を一層増大させるだけである。

こうした米中の軍事的緊張関係は、足並みの乱れが目立つASEAN諸国を結束させ、離中から反中へと向かわせる可能性がある。

その兆候は、すでに出始めている。米海軍と海上自衛隊は、南シナ海で空母レーガンも参加した演習を行い、また、中国寄りと目されているインドネシアはTPP参加を表明し、中立的な立場をとっているタイも参加に興味を示し始めており、中国は東南アジアにおいて、しだいに孤立しつつある。

また、TPPの大筋合意はEUにも影響を及ぼし、これまで停滞していた日欧EPA交渉を加速させるという、副産物を生み出そうとしている。

もしこれが妥結すれば、太平洋と欧州において、中国を排除した経済圏が誕生することになる。

こうした事態は、衰退期に入った中国経済をさらに悪化させるだけでなく、南シナ海への軍事力増強は、さらなる出費を強いることになり、それが、経済をより悪化させ、これが、国内情勢の不安定化へと発展するという負のスパイラルに嵌り込むことになる。

ライスの甘言に乗り、軍事費の大幅削減に乗り出した米国の足元を見て、軽率にも岩礁の埋め立てを行ったことにより、中国は文字通りデッドロックに乗り上げ、にっちもさっちも行かなくなりつつあるのだ。

さらに、29日、ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海における領有権に関する審理開始を決定した。中国の南シナ海に対する一方的な主張と傍若無人の振る舞いは、国際法の観点からも裁かれようとしている。

こうした事態を回避するためには、「中国の夢」などという誇大妄想を周辺国に強要するのは止め、国営企業を民営化するなどの大改革に乗り出すことが必須だが、これは、即、共産党の権力基盤を崩壊せることに直結する以上、どだい無理な話であるから、中国の将来は益々暗くなったと言わざるを得ないのだ。

 

「一帯一路」にクサビを打ち込んだ安倍中央アジア歴訪

習近平が7兆4千億円もの大金を大盤振る舞いして、金ピカの馬車に乗せてもらい、キャメロンとパブでビールを飲んで、ご機嫌になっていた10月22日、安倍首相はモンゴルを訪問し、積極平和主義への支持をとりつけるとともに、資源開発や鉄道建設の協力など経済協力強化で一致した。

そして、翌23日以降、中国の裏庭である中央アジア5か国(トルクメニスタンタジキスタンウズベキスタンキルギスカザフスタン)への歴訪を開始した。

最初の訪問国トルクメニスタンでは、天然ガスプラントなど総額2兆2千億円以上の大型案件の受注に成功した。

次の訪問国、タジキスタンでは、ODA8.6億円の支援を表明する一方で、日本の平和国家としての戦後の歩みに対する評価を得たばかりでなく、日本の常任理事国入りの支持をとりつけた。

さらに、親日国として知られるウズベキスタンでは、産業多様化や人材育成に協力するとともに、127億円のODA供与を行うことで合意した。
その一方で、「中国公船による領海侵入や一方的な資源開発など、中国の憂慮すべき活動は依然継続している」と、中国を名指しで批判した。

これに対し、カリモフ大統領は、「日本人に対しては敬意をもって接している」、「最も透明で効率的な動きをしているのが日本だ」と評価することによって、中国に対する批判に暗黙の支持を与えた。

ロシアとの関係が強いキルギスに対しては、交通インフラの整備に約136億円のODA供与を表明するとともに、議会制民主主義への定着支援を約束した。

最後の訪問国カザフスタンでは、原子力発電所の建設に向け、協力関係を強化することで合意した。

これら中央アジアの国は、元々、親日であることもあり、日本の積極平和主義に対する支持の表明や、日本が積極的に関与することに対する期待の高さは、カネにモノを言わせて強引に事を進めようとする中国とは一味違った、日本ならではのきめ細かい人的支援や技術支援に対する高い評価の表れであろう。

トルクメニスタンを除く4か国は、AIIBに加盟し、中国の「一帯一路」構想の中核をなす国々であるが、中国に対する過度な依存を避けるためには、日本との関係強化は必須であり、その点では、今回の安倍首相の歴訪は、中央アジア諸国にとっては、正に、渡りに船であったろう。

いくら中国が、「一帯一路」構想を提唱して、強引に中央アジア諸国を勢力圏に取り込もうとしても、ウインウインの関係にならない限り、我々は「そう簡単には、中国の思うとおりにはなりませんよ!!」と旗幟鮮明にしたのだ。

日本が供与するODAの総額は約272億円で、7兆4千億円とは比較にならないほどの少額であるが、今回の歴訪で得た成果は、地政学的にみても計り知れないものがある。また、2兆2千億円以上の受注に成功しており、そろばん勘定としても大幅な黒字だ。

 そして、何よりも、他国に対する支援は、お金の額ではなく、中身が大切だということだ。いくら大金をつぎ込んでも、その国の利益にならないのでは、感謝や尊敬を得ることが出来ず、トブに金を捨てるようなものだと言うことを、今回の歴訪が証明した。

「金で人の心は買えない」、この格言を中国はもっと噛みしめるべきだろう。

 7兆4千億円で英国の買収に成功したと有頂天になっている間に、人の懐に(中央アジア)手を突っ込んで引っ掻き回した安倍首相の歴訪は、訪英の成果に冷水を浴びせ掛けるものであり、習近平にとっては「安倍のヤロー、えげつないことをしゃーがって」と言ったところであろう。

 おりしも、「5中総会」が開催されたタイミングを狙ったかのように、10月27日、米海軍は南シナ海での巡視活動開始を公表した。

 一方、どちらかと言うと中国寄りであったインドネシアはTPPへの参加を表明し、タイも検討を始めた。

かくして、太平洋では経済のみならず軍事面でも中国包囲網が形成されつつあるのだ。後先を考えない軽率な岩礁埋め立てが、益々、中国を窮地に追い詰めようとしている。

 

オズボーン財務相は第2のチェンバレンか?それとも

英外相チェンバレンの対独宥和政策は、ヒトラーを益々増長させ、結果的に第2次世界大戦の引き金を引いてしまった。

 

力を背景として、既存の国際秩序を再構築しょうと目論む独裁者に対する宥和政策は、危機を増幅させ、ロクな結果にならないことは歴史が証明するとおりである。

 

その教訓を英国はしっかりと学んだはずなのに、同じ過ちを犯そうとしているのであろうか?そう、オズボーン英財務相の異常なまでの対中宥和政策である。

 

AIIBには西欧諸国では真っ先に参加を表明して、南シナ海岩礁埋め立てで孤立しつつあった中国を救い、今度は、訪米では、旅客機を300機も爆買いしたにも関わらず、ワシントンでは冷たくあしらわれた習近平を、国賓として厚遇して蜜月関係を演出し、権威を高める手助けをした。

 

こうした中国重視政策を「オズボーン主義」と称するのだそうだが、人権問題や強引な海洋進出は棚上げにして、経済的利益のみを追求する姿勢は、大英帝国の威信を自ら毀損させるのみならず、中国に英国組みやすしと足元をみられ、いいように利用されかねない危険性をはらんでいるのだ。そう、かって、ヒトラーチェンバレンを手玉に取って利用したように。

 

さすがに、英国内では、「キャメロン政権が中国にぬかずいている」との批判が出ているようだが、そう受け取られてもしかたないだろう。

 

10月21日に行われた首脳会議では、8項目の合意がなされたが、その中でも注目されるのは、中国マネーを使って、中国の原子炉技術を導入して原発を建設する、高速鉄道事業を協力して促進する。の2つであろう。

 

中国の企業が原発建設に参加することは、中国に英国の安全保障の一部を委ねることを意味する。

 

また、日本の新幹線の3世代も4世代も前のコピーでしかない中国製の高速電車を導入したとしても、鉄道発祥の地で、目の肥えた英国人を満足させられる質の高い電車を、安全に走らせることができるかは、はなはだ疑問である。

 

このように、「オズボーン主義」は、7.4兆円の大金欲しさに、国の安全保障と国民の安全を売り渡す行為であり、そこまで大英帝国は落ちぶれたか、との感を強くする。

 

しかし、物事には、何でも裏表の2面がある。見逃してはならないのは、習近平が両国関係を「共同体」と称して政治的連帯を求めたのに対し、キャメロンはこれに一切反応することなく、経済問題だけにマトを絞ったことである。

 

英国の歓心を買うため大盤振る舞いした7.4兆円も、経済減速が益々顕著となり、7%の成長なぞは夢のまた夢、6%すら怪しい現状では、これだけの大金を本当に工面できるか、中国が参加する原発建設に英議会や国民が同意するのか、英国の国情や風土に適合した高速鉄道を提供できる技術やノウハウが本当にあるのか等々を考えると、しょせんは、空手形、空約束に終わってしまう可能性が十分ある。

 

そうなると、カネの切れ目は縁の切れ目で、「オズボーン主義」は幻想となり、同時に、中国の国際的信頼性は益々低下し、習近平の権威も大きく失墜するだろう。胴上げして、一斉に手を引っ込める、正に、天国から地獄に真っ逆さまだ。

 

香港では煮え湯を飲まされ、李首相の訪英では、エリザベス女王との面会を強要されるなど、中国に対する屈辱感が鬱積していた中での習近平の訪英は、出来もしない約束を交わすことによって、中国に意趣返しを行うための舞台装置だったのだろうか。

 

それが隠された真の狙いであったのなら、老獪で狡猾な大英帝国の面目躍如といったところで、まさに、「おぬしやるな!!」であろう。

 

 

TPP大筋合意は習近平とプーチンのおかげ?

1814年のウィーン会議における「会議は踊る、されど進まず」の再現を思わせるTPP閣僚会合も、延長に次ぐ延長で、ようやく、10月5日、大筋合意に達した。

7月末の会合では、NZが乳製品の輸入拡大を巡って強硬姿勢を崩さなかったため、合意に至らず、これで、TPPも長期漂流かとあきらめムードが漂い、この時、僅か3ヶ月足らずで合意に達するとはだれが予想したであろうか。

今回の会合において、12か国が共通認識として持っていたのは、中ロに対する「危機感」であろう。

中国においては、公約としている7%の成長は絶望的な経済減速、治安が比較的安定していた、南部における連続爆破事件に見られる治安の悪化と国民の不満の増大、こうした、国内情勢の悪化から国民の目を反らすために行っている、段平を振りかざしての強引な海洋進出。

その一環として行っているが、南シナ海埋立地の軍事基地化と東シナ海尖閣侵入やプラットフォームの建設だ。

片やロシアは、クリミア半島を併合し、ウクライナ東部に軍事介入したことにより、ウクライナのみならず東欧諸国を益々EU側に向かわせてしまったことにより、西への発展の道が閉ざされ、必然的に東と南に目を向けざるを得なくなった。

北方領土への頻繁な要人訪問、ウラジオやサハリンにおける極東開発、サウジやエジプトへの接近、そして、シリアへの軍事介入である。

この2か国が目指すのが、太平洋への進出だ。9月25日のオバマ・習会談、28日の安倍・プーチン会談において、中ロ両国は、その意図を明確にした。

こうした一連の経緯を見て、TPP参加12か国は、太平洋における「新冷戦時代」の幕開けを実感したことだろう。

中ロの太平洋進出を阻止し、中国の経済減速+国内の混乱に巻き込まれないためには、最早、国益優先のゲームをやっている場合ではない、多少譲歩してでもTPPをまとめ、12か国が結束することが喫緊の課題であると悟ったのだ。

今回の合意によって、太平洋に世界のGDPの40%を占める巨大な「円・ドル経済圏」が形成される。

これによって、中国とロシアに対して、経済障壁を設けることができるのみならず、経済連携は、やがて政治や軍事面での連携へと発展し、一種の運命共同体的な同盟国としての役割を果たすことが期待され、これによって、はじめて、中ロの横暴に結束して対抗できるようになるのだ。

その意味において、今回の大筋合意は歴史的な快挙なのだ。その後押しをしてくれた、習近平プーチンに感謝すべきであろう。

今後、太平洋における経済の重点は、中国からTPPに移行し、日本のみならず、周辺国の中国離れは一層加速するだろう。

また、2邦人のスパイ容疑逮捕は、外国人にとって、中国が安全な国ではないことを立証した。スパイ容疑を理由に簡単に逮捕されるのだから、安心して仕事などできるものではないからだ。

ロシアも北方領土を含め、いくら極東を開発したとしても、日本の協力を得られない上に、TPPの障壁に遮られてしまうため、期待したほどの効果は上げられず、無駄な投資に終わる可能性が高いのだ。

 

弱り目に祟り目だった習近平の訪米

最大の売りであった経済が落ち目になると、こうも扱いが変わるものかと痛感させられたのが、今回の訪米であった。

軍事パレードで力を見せつけ、シアトルではボーイング社の旅客機を300機も爆買いし、意気揚々とワシントンに乗り込んだが、そこには、とんでもない伏兵が潜んでいた。

ローマ法王フランシスコである、オバマ大統領だけでなくバイデン副大統領までもが夫婦そろって出迎え、テレビは連日一挙手一投足を生中継で伝え、各地でパレードを行い群衆は熱狂的に歓迎した。

全米が法王フィーバーに沸く中、習近平の訪米に対するマスコミや国民の関心は薄く、すっかり存在感がかすんでしまった。その余りのタイミングよさに、キリスト教徒やイスラム教徒に対する弾圧を止めない習近平に対する当てつけではないかと、ついつい勘繰ってしまいたくなる。

しかも、法王や安倍首相のように議会での演説も出来ず、国賓とは名ばかりの格下扱いで、シアトルとは打って変わった、冷たい雰囲気の中で米中首脳会談は行われた。

首脳会談で合意した内容は、共同記者会見における習近平の表情を見ればわかるように、中国にとっては芳しいものではなかった。

■中国が目指す新しい大国関係への言及が全くなかった。
米国は、法を無視し軍事力を背景とした海洋進出には反対する。したがって、新しい大国関係などは認めない。

サイバー攻撃はしないことで合意した。
もし、中国がこれを順守しない場合は、米国は経済制裁(まずは、利上げ)も辞さない。

南シナ海は、古代から中国の領土だった。
米国は、歴史的、法的根拠のない手前勝手な屁理屈は認めない。これに対抗する手段(ベトナムやフィリピンに米軍駐留、南沙諸島の封じ込め)をとる用意がある。

■軍用機の衝突を避ける行動規則に合意した。
東シナ海南シナ海での中国軍機の示威行動が制約された。

■中国は、7%の経済成長達成は可能と明言した。
中国経済の減速に対する不安を払拭するために、約束せざるを得なかった。しかし、実現は困難で、信用低下に拍車をかけるだけ。

温室効果ガスの排出量取引導入を約束した。
石炭中心から電気、LNGへの転換を迫られるが、これは、中国経済に大きな負担を強いるものであり、7%達成の可能性を益々困難にさせる。
また、環境技術に関しては日本の支援が不可欠であるが、尖閣にこだわる限り十分な支援を得られることはないため、空約束に終わる可能性が大きい。

■米国に逃亡中の中国人犯罪者らの送還協力を推進する。
当面の腐敗防止政策を推進するには役立つが、汚職官僚の逃げ場がなくなるため、保身に走る余り行政が停滞し、国家機能がマヒする可能性が有る。また、自分が追われる立場になった時、受け入れてくれる国がなくなる。

4兆5600億円もの買い物をしたにも関わらず、中国が目指した新しい大国関係や、対等な関係を構築することが出来なかったのみならず、いやな課題を押し付けられてしまい、何ら得るものがなかったのが今回の訪米であった。国賓というメンツにこだわったばかりに高い買い物をしたものだ。

また、中国国内にボーイング社と合弁会社を作って旅客機を製造するそうだが、知的財産権の保護や外国企業に対する透明性の高い法整備が行われない限り、その実現性は低いと言わざるを得ないのではないか。

反日デモにおける日系企業に対する襲撃が、米国の企業に対して行われないと言う保証はないし、天津大爆発事件の真相究明をろくに行わず、臭いものに蓋をするようでは、危なくて進出できないからだ。

それにしても衝撃的だったのは、国連で習近平が「世界女性サミットを主催する」と表明したのに対し、民主党大統領候補のヒラリー・クリントンは、「女性の権利を訴える人々を迫害しながら、国連で女性の権利に関する会議を主催するとは、恥知らずだ」とこき下ろしたことである。

「言っていることと、実際にやっていることは全く違うではないか」というのが、米国の、いや世界の中国に対する共通認識なのだ。だから何を言っても、その真意を疑われ、信用されないのが、習近平が率いる中国の現状なのだ。

 

イスラム版ディアスポラの先にあるものは?

20015年9月5日、メルケル独首相は、ハンガリーで足止めを食っていたシリアを始めとする中東地域からの難民・移民を受け入れると発表した。

これを契機に、ドイツを目指して中東やアフリカからの難民が堰を切ったように押しかけるようになった。

その通路となった東欧諸国は、その余りの数の多さに驚愕してフェンスを建設して流入を制限すると共に、EUが決定した難民の受け入れ割り当てを拒否している。

東欧諸国にとっては、自国民の生活すらままならないのに、難民を受け入れる経済的余裕なんて無いというが本音であろう。結局、ドイツにたどり着けない難民は、その周辺国でたらい回しされているのが現状だ。

2010年12月18日に始まったチュニジアジャスミン革命から、アラブ世界に波及した「アラブの春」は、リビア、エジプト、そして、シリアにも飛び火した。

その結果、カダフィは殺害され、エジプトにはイスラム政権が誕生し、シリアでは反政府勢力と内戦状態となり、その過程で、ISが誕生した。

リビアカダフィと軍が一体化していたため、カダフィが殺害されると国家そのものが解体されて、元の部族社会に回帰してしまった。

エジプトは軍が健在であったため、国家の解体はかろうじて免れた。一方、シリアはEUや米国が反政府勢力を支援し、ロシアがアサド政権を支援したため、終わりなき内戦となり代理戦争のようになってしまった。

アラブの春」旋風が巻き起こった時は、これで中東も民主化されるのではと期待されていたが、結局は、破壊と混乱をもたらしただけで、「アラブの嵐」に終わった。独裁政治と部族社会しか経験していない国に、西欧的な民主主義を導入しょうなんて、どだい無理な話なのだ。

イラク戦争において、サダム政権を打倒するだけでなく、統治の基盤であったバース党まで瓦解させたことによりイラク国内の情勢は安定せず、クルド人を覚醒させ、ISの台頭を許し、テロの脅威を世界中に拡散させてしまった。

しかも、スンニー、シーア、クルド、ISと4分割されてしまったイラクは国家としての体を成さなくなって漂流を続け、多くの難民を生み出している。

シリアの難民は、米国とEUが、反政府勢力を支援したことによって発生したものであり、その責任の一端は米国とEUにあるのだ。

米国もEUも、天皇制を残し、官僚機構を温存して日本の復興を成功させたGHQのやり方を、もっと見習うべきであろう。いくら独裁政権といえども、政権のみならず国家の統治機構まで根こそぎ破壊してしまっては、元も子もなく、更なる混乱を引き起こすだけなのである。

ドイツ、仏、英、それに、米国が難民受け入れを表明したことは、責任の取り方としては評価できるが、問題は、大量にイスラム教徒の難民を受け入れた結果がどうなるかであろう。

難民の流入は、紀元2世紀のユダヤ人のディアスポラ(離散)を彷彿とさせるものであり、ロシアや欧州諸国に流入したユダヤ人が、17世紀から19世紀にかけて殺戮・略奪・破壊・差別などの集団的迫害行為(ポグロム)を受け、ついには、ナチスによるホロコーストへと発展した歴史を振り返ると、これらイスラム教徒の難民たちが、将来、EU域内で同じ目に合わないと言う保証があるだろうか。

子供が5人や6人いるのが普通のアラブ人が定住すれば、人口減に悩むドイツにとっては、労働力を確保できるという当面の利益は享受できるが、いずれは、人口比が逆転してしまい、キリスト教国の中に強大なイスラム共同体が併存することにもなりかねない。

こうした事態は、極右勢力やネオナチの台頭を許し、いつか来た道で、今度はイスラム版のポグロムホロコーストが起きかねない。

ただ、イスラム教徒達がナチス時代のユダヤ人のように、おとなしく従うわけはなく、へたをすると、今日のシリアのような混乱をEU域内で再現することにもなりかねない。

これまで、メルケル首相は名宰相として称賛されてきたが、9月5日の決定は、EU崩壊のみならず、EUのシリア化への引き金を引いたかもしれないのだ。

 

「安保法」の効果と、今後の課題

「安保法」は9月19日未明、ようやく参議院を通過して成立した。これまで、米国内では、「米国は日本を守ってやるのに、日本は米国を守ってくれない。これは、不公平だ」との根強い批判があったことから、安保条約は、所詮、「空証文」ではないかとの懸念が付きまとっていた。

 

しかし、かなり限定的とは言え、集団的自衛権の行使が可能となったことにより、この空証文は、一転して、実効性のある「真の証文」となり、中国に対する抑止力は飛躍的に高まった。

 

また、日本が世界的規模で質の高い軍事的貢献をこれまで以上に果たすことにより、より一層、日本の外交に重みと厚みを与え、これが、日本の味方を増やすことに繋がり、国際的地位を向上させる。

 

そうすれば、中国は尖閣に対して軽々に軍事的な挑発が出来なくなる。もし、そのようなことをすれば、確実に、米国の軍事介入を誘発するだけでなく、世界中から非難を受けて孤立することになるからだ。

 

世界の平和と安定に軍事面でも貢献することによって、世界を味方に付ける、これが、「真の抑止力」なのだ。

 

一方、米国は日本との軍事同盟が実効性あるものになったことにより、中国や中国への傾倒が著しい韓国に対する立場を更に強化することができた。

 

この成果は、9月25日に予定されている習近平の訪米に遺憾なく発揮されることだろう。韓国に対しても、朴大統領の訪米時、在韓米軍撤退(+経済制裁)かTHAAD受け入れかの二者択一を、これまで以上に迫ることになるであろう。

 

また、中国の脅威に晒されているASEAN諸国、とりわけ、ベトナムやフィリピンにとっては、米国と日本が共同で、南シナ海に対する軍事的関与を強化してくれることは大歓迎だろう。

 

台湾にとっても同様だ、東シナ海における日米両軍の連携強化は、台湾防衛にとってもプラスになるからだ。

 

このように、安保法は、尖閣のみならず東シナ海南シナ海における中国の海洋進出を抑制するための、有効な手段としての役割が期待できるのである。だからこそ、ASEAN諸国や台湾は、安保法の成立を歓迎したのである。

 

それにしても解せないのは、翁長知事の反応だ。中国の脅威を日常的に肌で感じている石垣島市長は成立を歓迎したのに、肝心の知事は「沖縄の負担軽減につながらず、禍根を残す」と発言した。

 

尖閣や沖縄の安全保障に直結する法律であるにも関わらず、それを否定し、このように中国を利する反応をすることは、「どこの国の知事だ!?」と問わざるを得ない。これを国賊と言う。

 

問題は、具体的にいかに実行あらしめるかだ。今後、関連法や諸規定が整備されていくことになるが、最大の問題は、自衛隊の強化と処遇の改善だ。

 

自衛官の数はもっと増やさないと、現在の数ではとても対応できないだろうし、予算も増やさなければならない。

 

もっと大切なことは、殉職(戦死)自衛官の遺族に対する生活保障や顕彰、身体的障害を負った自衛官に対する生活保障制度をしっかりと整えることだ。

 

これを怠ると、現実に殉職者出た場合、現場の自衛官は激しく動揺し、士気は低下し、海外に派遣することは困難となるであろう。

 

自分が死んだら、家族は路頭に迷い、あまつさえ、自分も殺人者の汚名を着せられるのでは、いくら、国家の為とはいえ、誰も行く気にはならないだろう。

 

殉職者の顕彰のありかたについても再検討が必要だろう。現在は、市ヶ谷の防衛省の一角に顕彰碑を立てているが、これは、あくまでも訓練などで殉職した自衛官に対するものであり、防衛省が主催して顕彰行事を行っている。

 

しかし、海外で殉職したとなると、国家のために命を捧げたのであるから、国が主催して、国民全体で顕彰する必要が生じて来る。それが、殉職した自衛官や家族の名誉にもなるのだ。

 

そうしたことが出来る施設は、靖国神社しかない。殉職した自衛官も、国家のために殉じた先輩達と同じ扱いを受け、そこに祀られることは本望であろう。

 

A級戦犯(そもそも、戦死していないのに、ここに祀るのは筋が通らない)は分祀して、靖国神社は国が管理し、天皇陛下がお参りできる環境を整えることだ。「仏作って魂入れず」になっては、なんのために苦労して作った法律かということになりかねないからだ。

 

野党を始め、国民の間では、「憲法違反」「戦争法」との批判が根強く、廃案を求める声が多くあるが、肝心かなめの、その役を担う自衛官がやる気をなくしてしまえば、自衛官のなり手がいなくなれば、いくら立派な法律を作ったところで、実行できないため、自然と白紙に戻されてしまう。

 

そして、それは、日米安保条約の空文化、日米の離反、日本の国際的地位の低下、尖閣や沖縄の喪失へと繋がり、日本は滅びの坂を駆け下りるのだ。国を守る気概のない国民は、まともな国家を持つ資格など無いのだ。