トランプ大統領誕生は、日本にとってピンチ?チャンス?

トランプ候補が選挙期間中に発した「在日米軍の撤退」「核武装の容認」「TPPからの離脱」といった数々の刺激的な発言は、日本では、こころ穏やかならずとも、どうせクリントンが勝利するのだからと、それほど重く軽く受けとめられることはなかった。

ところが、まさかの大どんでん返しで、クリントンに勝利して大統領になることが決まった瞬間、日本の空気は一変した。

在日米軍の撤退は有り得る」との認識のもと、自衛隊の強化が真剣に論じられるようになり、さらに、戦後、70年にわたって最大のタブーであった核武装まで論じられるようになったのだ。

また、TPPはオバマ政権下での議会承認を断念したことにより、実現は絶望的になった。

トランプ本人は、日本からもっと金を引き出すための方便として、在日米軍の撤退を持ちだしたようであるが、それは、日米安保を、実利を得るための「取引の手段」としてしか捉えていないことを意味している。

これは、日本が冷戦崩壊後一貫して果たしてきた、米国の対中・対ロ戦略の前衛国家や、アジアにおける米国の軍事的影響力行使のためのキーストンとしての役割を完全に否定するものである。

それは、無意識の内に、北朝鮮核武装と中国の推し進める第2列島線への進出を容認し、南シナ海における中国の支配を認め、太平洋を米国と中国で東西に分割することを受け入れたことを意味している。

ことの重大さに気づいたのか、大統領当選が決まった瞬間、これまでの過激な発言は影を潜め、オバマ大統領との会談でも、尊敬すると持ち上げ、指導を仰ぎたいと殊勝な態度を示したが、ことすでに遅しだ、一度開いたパンドラの箱はもう元にはもどらない。

日本人の頭の中には、在日米軍の撤退と核武装がインプットされてしまい、これを前提として、今後は、核武装を含めた日本の安全保障や防衛戦略が論じられることになるのだ。

トランプ発言は、日本の自主防衛を加速させるチャンスを与えてくれたのだ。

また、TPPも同様で、安倍首相は米国の動向に関係なく批准を確実にした。これを見て、他の参加国は、発効の前提を変更し、米国抜きで自由貿易圏の設立を目指そうとする動きが出てきた。もし、これが実現すれば、米国は太平洋で経済的に孤立することなる。

また、トランプ政権下で日米安保条約が骨抜きになって「紙くず」になるのあれば、ロシアのみならず中国や北朝鮮との関係見直しは必然だろう。

北方領土は2島+αで妥結して平和条約を締結すれば、北方の脅威は解消されるし、米国市場に成り代わってシベリアでの経済進出が加速される。 もし、中国と平和条約を締結することが出来れば、尖閣は些細な問題となるし、AIIBに参加すれば、過剰な日中間の経済援助競争を緩和し、wi n  winの関係にすることが可能となる。

北朝鮮と国交回復すれば、拉致問題は解決し、核やミサイルの脅威を格段に下げることができる。

汚職やスキャンダルまみれの大統領しか輩出できない韓国よりも、人権問題に目をつむれば、北朝鮮のほうがよほどしっかりしている。

もし、トランプ大統領が、日米安保を「実利」優先で日本に無理難題を押し付けてくるのであれば、これくらいの覚悟で交渉に臨む必要があるだろう。

従来の普遍的価値を全面否定し、正義を不正義とし、不正義を正義に転嫁させたのであるから、日本も価値観を180度転換しなければ生き残れないのだ。

いずれにしても、トランプ氏の選挙期間中の暴言は、日本の自立化と再軍備を促し、日米関係のみならず対中、対ロ、対北朝鮮関係の抜本的な見直しのチャンスを与えてくれたのだ。

同時に、今後4年間、米国は世界秩序を維持するメインプレーヤーから、世界に混乱をもたらすトラブルメーカーとしての役を果たすことになるのだ。

トランプ大統領は後世、世界に混乱と戦争を招いたヒトラー、それを許した共和党ナチスと同列に扱われるかもしれない。

1月17日、安倍首相はトランプ氏と直接会談するが、このようなことを認識した上で発言したのか、そうなっても良いと考えているのかをしっかり確認する必要があるだろう。

トランプ大統領が、日米同盟の意義を良く理解し、自由主義圏に属していることをしっかりと認識して、世界の平和と安定のために、実利優先主義を転換して現実的な政策をとってくれることを切に願う。