何だろう、この微妙な空気は?オバマ大統領の広島訪問

5月27日、オバマ大統領が広島を訪問した。原爆資料館を見学し、慰霊碑の前で花輪をささげ、17分に及ぶ悼辞を通じて、格調高く、核兵器のもつ残忍さと、核廃絶の重要性を訴えたことは、被爆者のみならず、国民やマスコミに好意的に受け取られ、一定の評価を受けた。

聞くところによると、大統領自ら原稿を推敲したというから、その思い入れは相当なものであったのであろう。

インタビューに応じた市民の誰もが、これを契機に、世界の核保有国が核兵器廃絶実現に向かって欲しいとの願いを表明したが、本来であれば、マスコミもこれに同調して、もっとこの問題をとりあげ、核廃絶に向かって強くアピールすべきところであるが、なんとなく、醒めた感じがすると思ったのは、自分だけであろうか。

現在、世界中で進行しつつある厳しい現実を見るにつけ、大統領の意を尽くした言葉も空しく響くばかりである。

米軍の海外からの撤退論やTPP反対を叫ぶトランプ氏の孤立主義が、多数の米国民の支持を得、英国のEUからの離脱問題、EU諸国の難民排斥運動、中国の国際法を無視した傍若無人の行動、プーチン大統領の核使用発言、そして、国連の度重なる非難決議や制裁にも関わらず、核兵器開発を継続し、ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮などの一連の行動は、これまでの国際協調主義から国益優先主義への転換の流れを強く印象付けるものである。

こうした、国益優先主義の行きつく先は、バランサーや調停者不在の弱肉強食の帝国主義への回帰であり、それは、核の分散、核兵器の先制使用へと繋がっていくのだ。

これは、日本にとっては、戦後一貫して堅持してきた、日米安保を前提とした平和主義、国際協調主義、とりわけ、米国の核の傘によって保障されていた非核主義が破たんし、現在、北朝鮮が置かれているのと同じ立場に立たされることになるのだ。

沖縄で米軍基地撤退を叫んでデモをしなくても、米軍は撤退するだろう。そうすれば、即、中国は核恫喝の下に、沖縄のみならず、日本列島周辺海域には中国の漁船が押しかけ、中国の軍艦や戦闘機が周回し、沖縄は中国の影響下に置かれてしまうだろう。

米軍の庇護下に安住し、自分の国は自分で守る気概も能力もない日本は、強国の下にひれ伏すしか、生きる道はないのだ。

オバマ大統領の言葉が、実現不可能で、空しく響くのは、こうした情勢が背景にあるのだ。